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■■2005年3月21日発行■■


教育基本法「改正」案はファシズムだ


 1930年代、ドイツでナチが政権をとった時の選挙では92%の得票率であったという。これほど支持されたのは、ナチが民衆の生活上の不安や怨みに応えたからだ。
 当時の状況をエーリヒ・フロムは次のように伝えている。第一次世界大戦後、膨大な賠償金で国家財政は破綻し、国の威信が損なわれ、外国への怨みをつのらせた。大恐慌の結果、銀行や中小企業や商店が倒産し、失業者が増え、格差が広がり、少数の金持ちへの反感と生活不安が生じた。農村では借金の返済ができず中貧農が没落し、債権者のいる都市に反感をもった。労働者は何もできない労働組合に失望し、無力感をもった。家庭では家父長の権威が落ち、子が親を尊敬せず、家族がバラバラになり、家族倫理が乱れた。社会道徳が廃れ、官吏と企業の汚職がはびこり、民衆はエリート層に義憤を感じていた。
 自由主義者や組織労働者や市民は最初はナチに反対していたが、ナチへの支持が過半数に達すると、疲労感とあきらめに変わり、最後にナチを支持するようになった。そしてついに、多数派の民衆は民主主義を捨て、「強い指導者」を選ぶ道を選んだ。こう述べた後に、フロムはヒットラーを「オポチュニスト(楽天主義・御都合主義))」と評した。ヒットラーは下層や中間層の不安や怨念を代弁したが、不安や怨念が生まれる社会構造、つまり大資本や大農場主や国家利益のあり方ついては不問にふしたからだ。


民衆の怨念と不安のタネは尽きない!


 2000年代に入った現在、社会状況は70年前に非常に似ている。各国は財政赤字を抱え、公費削減が叫ばれ、企業の統廃合とリストラがあり、街の商店は大型店の進出で没落し、輸入農作物のために農業が圧迫され、労働市場はパートや契約や派遣が日常となり、労働組合の組織率は最低となり、国の内外の所得の格差が広がった。
 そして、家庭は幼児虐待やパラサイトシングルやひきこもりやニートの問題を抱え、学校には不登校・いじめ・校内暴力・学級崩壊があり、社会には依然として汚職や不正がはびこり、モラル・ハザートの時代といわれている。
 国際的には、北方領土や北朝鮮の拉致問題、コソボやパレスチナ問題、そして9.11以降のアフガニスタンとイラク戦争等々が泥沼化している。
 民衆の怨念と不安のタネは尽きない。だがこの社社会病理をもたらした根本の原因はグローバル資本にある。1日に2兆$の為替取引や株取引とストックオプション、途上国の開発利益等で、1990年以降に世界の億万長者が年に10万の桁で増えてきた。一方で飢餓に苦しむ人も増え、世界で数億人に達するこのグローバル資本を不問にふして、民衆の怨念と不安に応えようとするのが、憲法と教育基本法の改正派の人々といえる。


ナチの精神が生き続けている人々が・・・


 改正案のどの部分がファシズムだろうか。現行基本法の中の民主主義ということばを改正案では削除する。ナチは民主主義が嫌いだった。次に「心身ともに健康」という現行法を、心の部分は「道徳心」、体は「健全な身体」と二分する。ナチは一方で国民に道徳を強い、他方で健康政策に熱心で、国民健康保険を作り、そのリストに従い徴兵制を整備した。現行法に「人類の福祉」とあり、人種や民族や国家を越えて世界中の人々の幸せを願う意味が込められているが、改正案ではこのことばを削除する。国家を強調する意図が潜んでいるからだ。現行法に「個人の尊厳」とあり、だれしも生まれながらにしてもつ人権の思想が込められているが、改正案ではこれを削除する。ナチは人権思想が嫌いだった。 現行法にないのに、改正案では「自然に親しむ」ということばを入れる。自然に親しむのはよいが、誰が自然を壊したのか。生態系や環境を破壊したのは生産第一主義の経済体制にある。生産第一主義を否定せず、ただ「自然」を強調するのはナチの手法だった。ナチは世界に先駆けてアスベスト規制をし、食品添加物を禁止し、禁煙政策をし、菜食や全粒パンを奨励した。ナチは生産第一主義を強調し、同時に自然主義を唱えたので、優性思想(優劣を分けて、優秀な者を増やし、劣等者を淘汰する)に傾き、それが 600万人のユダヤ人虐殺に結びついた。
 現行法で身分や地位で差別してはならないと書かれているのを、改正案ではこの部分を削除する。ナチは平等が嫌いで、改正を唱える人々も平等嫌いだ。平等嫌いの人々は「違いがあるのに、何でも同じはよくない」という。近代に生まれた平等概念は「なんでも同じ」などというのではなく、社会的条件の公平さや生まれながらの権利のことを指しているのだ。ナチや改正案の思想は格差を隠すことにある。
 改正案では新たに「家庭は子育てに第一義的な責任を有する」と入れる。現在は家庭崩壊の危機にある。個人化が進んでいるからだ。だが旧来の家父長家族を復活させてもその対策にはならない。改正案は家父長制は主張していない。だが、与党は憲法24条の男女平等の条文を改正しようとしているし、基本法から「男女共学」を削除しようとしている。だから、背後に家父長家族を想定している。ナチは国家自体が強い父=指導者をもつ一大家族のイメージをもっていた。

現行法の「教員は全体の奉仕者」・「教育は不当な支配に服することなく」の部分を削除し、改正案では「教育振興基本計画を」政府が決めることになる。全体として、現行法は国家が守るべき内容が規定されているが、改正案は国民が守るべき内容が規定されている。改正案によると国家は国民の指導者なのだ。改正案が通れば行政は議会を経ずに教育内容を変えることができる。ナチは民主的なワイマール憲法を廃止し、議会を無視して行政独裁の体制をしいた。
 憲法や教育基本法を変えようとする人々の心には、ナチの精神が生き続けている。
佐々木賢<社会臨床学会会員>

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